URL : https://www.craftale-tokyo.com
繊細なアートのような盛り付け、重層的な味わいのグラデーション、驚きのあるテクスチャー。一見すると前衛的にも感じられる大土橋真也氏の料理ですが、実はベースとなっているのは伝統的なフランス料理の技法。絶対的なおいしさをロジックとしているからこそ生まれる斬新な表現は、料理に多面的な表情を創り出します。
「クラフタル」という店名は、「そのままお店のコンセプトを表しています」と話す、大土橋真也氏。この名前は、「手技」を意味する“CRAFT(クラフト)”と、「物語」を意味する“TALE(テール)”の二つを組み合わせた造語で、生産者の手によって愛情を込めて生み出された食材の数々を、料理人やスタッフの手で料理という形に紡ぎ上げ、お客様に伝えることでレストランという物語を作り上げたいという想いが込められています。
さらに、これは同時に「FRACTALE(フラクタル)」という言葉のアナグラムでもあるそう。フラクタルというのは幾何学の概念で、これによって描かれる図形はその一部分と全体が相似形になる自己相似形という性質があります。
「難しく感じるかもしれませんが(笑)、例えばカリフラワー。小さな蕾の集合体が大きな蕾を形成しているように、自然の中の様々な要素がこのフラクタルによって形成されています。料理だけでなく、空間や器、そしてお客様がここで過ごす時間からも食材が生まれた自然の背景を感じていただき、満ち足りた想いになっていただけたら。そう考えています。」
子どもの頃から食べることが大好きだったことが、料理人になるきっかけだったという大土橋氏。実は、子ども時代は食材アレルギーがあり食べられないものが多かったのだそうです。
「卵や乳製品、そばなどはNG食材。その頃は、食べることが大好きなのに思うように食べられないことへのフラストレーションが溜まっていましたね(笑)。ようやく症状が改善して、飲食店でのアルバイトや、色々なレストランを食べ歩きしていた頃、『世の中で一番おいしいものが食べられる職業は料理人に違いない』と思い、この世界に入りました。」
調理師学校のフランス校を卒業後、「ザ・ジョージアンクラブ」、「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」といった日本を代表するグランメゾンで修業を積み、ここで伝統的なフランス料理の技術と“普遍的なおいしさの基準”を身に付けた大土橋氏。その後パリの人気ネオビストロ「サチュルヌ」でさらに腕を磨きます。
「すべての料理の大前提にあるのは、もちろんおいしさです。その先に生まれる自由な表現で私なりの個性を打ち出し、お客様にワクワクしていただいたり、楽しんでいただきたい。そう考えています」と、大土橋氏は話します。
味、香り、テクスチャー、温度など、多彩な要素が重層的に組み合わせられて一つの完成した“おいしさ”に行き着く。そんなストーリーを感じさせるのが大土橋氏の料理です。
例えば「デザートカプレーゼ」は、イタリア料理の前菜の定番である「カプレーゼ」をデザートに仕立てたもの。モッツアレラチーズ、トマト、バジル、EXVオリーブオイルという要素は残したまま、斬新なアプローチで仕上げられています。
トップに飾られたマイクロハーブの「バジル」の香りと、バジルシードの食感で爽やかな存在感を感じつつ、クリーミーなブッラータチーズにバジルとヨーグルトを加えたムース、グリーントマトのシャーベットの甘さと冷たさが追いかけてくる。さらに、バジルオイルの風味がその余韻を心地よく持続させてくれる。それぞれの要素が時間差で現れる緻密な構造は、まるで小宇宙のような感覚を生み出します。
「サイズが小さくても、素材としての香りをこちらの意図通りに的確に表現してくれるマイクロハーブの『バジル』は、このデザートには欠かせません。フォルムを崩すことなく、食材自体のストレートな生命力が伝えられます。」
また「自家製湯葉とチョリソーオイル」は、普遍的なおいしさである「麻婆豆腐」をロジックとして仕上げられた一品。自家製の湯葉、チョリソー、「四川花椒菜」の組み合わせは、まさに麻婆豆腐の味や香りの要素を満たしています。さらに、枝豆を加えることでフランスの伝統料理である「カスレ」を思わせる味わいも生まれ、それらの料理を知っている人、知らない人のどちらにもおいしさのイメージを膨らませてもらえる要素を持っています。
さらに、「オイスターリーフ」を使ったタルタルは、「次代に向けてのチャレンジ」という大土橋氏。牡蠣の風味を持った「オイスターリーフ」は、一般的には魚介や肉料理の付け合わせとして使われることがほとんどですが、この料理では「オイスターリーフ」自体を魚介に見立て、野菜のタルタルと合わせることで“牡蠣を食べているような”一品に仕立てています。
「ベジタリアンやヴィーガンなど、様々な理由で牡蠣が食べられない人にとっては、牡蠣を食べた満足感が味わえる料理に。牡蠣が苦手な人には、“苦手”と感じる要素を他の食材でマスキングすることで中和して食べやすく仕上げました。『オイスターリーフ』一つで、新しいおいしさの可能性が広がっていくことは、作り手にとっても楽しみですね。」
揺るぎない「おいしさ」を軸に、多彩な表現を生み出す料理の発想は、単なるトレンドではなく「食べることが大好き」という純粋な想いから湧き上がってくるもの。「様々な人の手を持って作り上げる自己表現の場として、このレストランをさらに進化させていきたい」。大土橋氏はそう話します。