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季節を感じる、繊細で華やかな料理の数々。訪れてくださったすべてのお客様に喜んでいただける料理を仕上げたいという髙橋雄二郎氏の想いは、一皿ひと皿への妥協のない手技に込められています。その根底にあるのは、修業時代から培ってきた骨太な料理観。フランス料理の伝統を大切にしつつ繰り出される斬新な表現は、食べる人を驚かせます。
「味、技術のどちらにおいても、クラシックなフランス料理をベースにしたいというスタンスは、料理を始めた頃から変わりません。ただ、ブレない軸を持ちつつも一歩先を見据えた表現に挑戦していきたいと常に考えています」と話す、髙橋氏。
旬の素材の香り、味わい、存在感を前面に出した変化のある高橋氏のコースは、心地よい流れがありながら、ひと皿ごとにきめ細かい技が施され、研ぎ澄まされた感度が伝わってきます。その根幹にあるのは、幼少期の経験と修業時代に培われたフランス料理に対する骨太の料理観です。
食通のご両親の元に生まれ福岡県で育った髙橋氏。子どもの頃からおいしいお店に連れて行ってもらう機会があり、「食事には恵まれていた」といいます。呼子のイカや下関のふぐなど、九州ならではの高級食材を口にする機会も多かったのだとか。しかし、恵まれた環境に反して、大学を卒業するまでは「米を研いだこともなかった」というほど料理をすることに関しては興味がなかったそう。
「料理に興味を持ったきっかけは、実はカルボナーラなんです。ふと思い立ってカルボナーラを作ろうとしたとき、『簡単だろう』と軽い気持ちで作ってみたら炒り卵になってしまって(笑)。かなりショックでしたが、料理についてもっと深く勉強したいという気持ちが沸き起こりました。大学卒業後は出版社に就職しようと考えていたのですが、方向転換して地元の調理師学校に通いました。」
一旦、「これ」と思ったらのめり込むタイプという髙橋氏。入り口はカルボナーラでしたが、調理師学校時代は三國清三氏に憧れ、フランス料理に転向。卒業後は、都内のレストランでの研修や修業を経て2004年に渡仏し研鑽を積みます。
「修業中に、様々なシェフの手法や料理への姿勢、こだわりなどに触れることで、“ひと皿”を完成させることにおける厳しさを学びました」という髙橋氏。中でも印象に残っているのは、フランス料理界の重鎮である田代和久氏がオーナーを務める「ラ・ブランシュ」(東京・渋谷)に、勉強を兼ねて食事に行ったときのことです。カリフラワーのブランマンジェと甲殻類のジュレを合わせた一品で、なめらかなブランマンジェとジュレのテクスチャーに違和感が出ないよう、双方のギリギリの凝固感を狙うという妥協を許さない田代シェフの姿勢に、プロの料理人の厳しさを見て感動しました。」
「いらしてくださったお客様に、おいしかった、楽しかったと笑顔で声をかけていただく幸せが料理人としての原点」という高橋氏。そのためにひと皿の細部にまで気を配り、常に最高のバランスを追求する料理の根幹は、修業時代のこんな経験にも裏打ちされているのです。
髙橋氏の提供するコースは、それぞれの皿の中で緻密な仕事がなされていることが魅力の一つとなっています。素材の組み合わせの妙をはじめ、味、食感、温度、それを食べるスピードなどまで配慮した仕立ては、料理のリズム感を伝えてくれます。
初夏のアミューズの定番となっているが「枝豆チュロス」。ゴツゴツした富士山の溶岩石に“生えているように”盛り付けられているのは、ペースト状にした旬の枝豆を練り込んで揚げたチュロスと、塩茹でにした枝豆。そこに、「クレイジーピー」を添えた自然の風景を思わせる盛り付けが印象的な一品です。枝豆チュロスのカリッとした香ばしさや甘さ、「クレイジーピー」の青っぽい風味、固めに塩茹でした枝豆のフレッシュ感が合わさることで、豆素材の香り、味わい、食感のグラデーションが生まれ、コースの期待感を高めます。
「最初の一品は、シャンパーニュやスパークリングワインと合わせて楽しんでいただくことも考えてチュロスには塩をふってメリハリのある味にします。ちょっとしたニュアンスでおいしさは微妙に変化しますから」と高橋氏は話します。
また、フランス修業時代にはパティスリーで働いていた経験もあり、大のスイーツ好きとしても知られる高橋氏は、凝った仕立てのデザートでも高い評判を得ています。
ハーブをふんだんに使った、個性的な一品として紹介してくれたのは「クレームブリュレのメランジェ」です。クレームブリュレ自体は、マスカルポーネチーズ、クリームチーズを使った濃厚な味わいですが、そこに「アニスイート」、「四川花椒菜」、「バジル」、「紫蘇グリーン」といったマイクロハーブのほか、オキザリスやミント、コーンフラワー、ひまわりの花、フェンネルの花などの清涼感や酸味のあるハーブと、ブルーベリーを一面に散らして華やかなサラダのように仕立てています。
「仕上げに客席で、ミントと発酵乳を液体窒素で凍らせたパウダーをかけることで演出効果も高めました。ブリュレはコースで提供すると重めのデザートになりますが、様々なハーブをメランジェで盛り付けることで、それぞれの個性が立ちすぎず、軽く食べられます。食べる場所によって色々な味が楽しめるのもポイントです。」
また、「紫蘇パープル」の鮮やかな色合いとの爽やかな組み合わせが個性的なのが「桃のコンポート」。煮込みなどしっかりした味わいのメインディッシュの後にアヴァンデセールとして提供するこのメニューは、桃のコンポートの下にショウガのブランマンジェ、梅のジュレとムースを忍ばせ、様々な味わいが楽しめる一品です。
「マイクロハーブ」を独特の世界観を伝えられる素材として愛用しているという高橋氏。表現の幅を広げるためのエッセンスとして、欠かせないものとなっているようです。